ナラティブ
別名:物語叙述、ストーリーテリング
事実であれ創作であれ、つながりのある出来事を、ある視点から語ったものです。語ることそのもの、つまり物語が観客に届く順序、声、視点を指す言葉でもあります。
実践では
二本の映画が同じプロットを持ちながら、語り方のせいでまったく似ていないことがあります。ナラティブとは、その語り方を指す言葉です。誰がいつ何を知っているか、どの出来事を見せ、どれを飛ばすか、それらがどんな順序で届き、どんな声が伝えるか、ということです。
脚本家はページごとにナラティブの選択をしています。結末から始める、ある人物が知っていることを伏せる、二つの時間軸を切り替える、ボイスオーバーの語り手に観客を欺かせる。これらはすべて、何が起きるかではなく、ナラティブについての決定です。
原稿がわかりにくい、あるいは遅いという指摘を受けたとき、問題はストーリーではなくナラティブにあることがよくあります。出来事は正しくても、順序が間違っているのかもしれません。場面を書き直す前に、場面を動かしてみるか、観客が共有する視点を変えてみましょう。時系列どおりだと間延びする場面も、観客がすでに抱いている問いへの答えとして届けば、心をつかむことがあります。
1ページ目でのナラティブの選択
EXT. 湖畔の家 - 桟橋 - 夜
桟橋の先に車が半分沈んでいる。ヘッドライトは水中でまだ点いている。ずぶ濡れのサラ(30代)が板の上に座り、使わずにいる携帯電話を握っている。
SARAH (V.O.)
みんなに訊かれる。どうして助けを呼ばなかったのかって。正直に言えば、呼ぶかどうか決めかねていたの。
CUT TO:
INT. 湖畔の家 - 台所 - 3日前
明るい朝。サラが買ってきた食料品を袋から出しながら、画面の外の何かに笑っている。
この映画のストーリーは桟橋の3日前に始まります。ナラティブは桟橋から始まり、選択肢があったと認める語り手がいるので、その後に続く明るい場面はすべて疑いの目で見られます。出来事は何一つ変わっていません。変わったのは順序と声だけで、それこそがナラティブの意味です。
ナラティブとは
ナラティブとは、現実であれ創作であれ、つながりのある出来事を誰かが誰かに語ったものです。小説、映画、ニュース報道、回想録、歴史書、そして友人に話すその日の出来事も、すべてナラティブです。この言葉はラテン語の narrare(語る)に由来します。
文章や映画では、ナラティブは物語の語られ方も指します。構成、順序、視点、声です。批評家が映画のナラティブを褒めるとき、たいていは何が起きるかだけでなく、どう語られているかを指しています。
ナラティブは文章の種類を指すこともあります。物語文(ナラティブ・エッセイ)は、多くは個人的な体験をもとに物語を語るもので、主張を論じる論説文や、主題を説明する説明文とは区別されます。日本語では近年、ある集団が共有する物語的な見方を指してナラティブと言うこともあります。
ナラティブ、ストーリー、プロット
ストーリーとは、ふつう、起きた順に並べた出来事のことです。プロットとは、その出来事を因果関係に沿って選び、並べたものです。ナラティブとは語ることそのもので、特定の声、視点、形式を通して届けられるプロットです。
ロシア・フォルマリストは前の二つを、生の年代順であるファーブラと、観客が受け取る順序であるシュジェートと呼びました。E・M・フォースターは『小説の諸相』で似た指摘をしています。「王が死に、それから王妃が死んだ」はストーリーで、「王が死に、それから王妃が悲しみのあまり死んだ」はプロットである、原因が加わっているから、と。
この区別は実践で意味を持ちます。『メメント』は単純なストーリーを逆向きに語り、『パルプ・フィクション』はロサンゼルスの数日間を絡み合う章に並べ替え、『市民ケーン』は一人の男の人生を、彼を知る人々の記憶から組み立てます。どれも、出来事よりもはるかに大きくナラティブを変えています。
ナラティブの種類
構造で分けると、直線的なナラティブは出来事を時系列で語り、非直線的なナラティブはフラッシュバック、フラッシュフォワード、並行する時間軸を使います。枠物語は物語の中に別の物語を入れ、エピソード形式のナラティブはゆるやかにつながったエピソードで組み立てられます。
視点で分けると、一人称のナラティブは「私」と語る登場人物によって語られ、三人称のナラティブは物語の外にいる語り手によって語られます。その語り手は一人の人物が知ることに限られる場合も、すべてを知っている場合もあります。二人称のナラティブは読者を「あなた」と呼んで語りかけるもので、まれです。
目的で分けると、授業では、書き手自身の体験を語る個人的なナラティブを、フィクションのナラティブや、物語として語られる歴史や報道といったノンフィクションのナラティブと区別することがよくあります。映画には、ボイスオーバーの語り手や、その語りを信用できない「信頼できない語り手」といった独自の形式があります。
映画とテレビのナラティブ
映画には、わざわざ加えないかぎり語り手がいません。そのためナラティブは、カメラが何を、どんな順序で、誰の位置から見せるかによって組み立てられます。観客がその人物の知ることしか知らないよう一人の人物に寄り添い続けると決めることは、サスペンスや謎を生むナラティブの選択です。
『羅生門』は一つの犯罪を四人の証人を通して四通りに語り、その題名はそうした物語の型の名前にもなりました。テレビはしばしば複数のナラティブを同時に走らせ、A、B、Cのストーリーが人物の間を切り替えながら、エピソードの終わりに合流します。
脚本家は、場面の順序、トランジション、ボイスオーバー、フラッシュバック、字幕カード、そして各場面が伏せておくものによってナラティブを操ります。これらを変えれば、なじみのある物語も新しく感じさせることができます。
ナラティブの要素
ほとんどの定義が同じ基本要素を挙げます。行動し、変化する登場人物、時と場所の中にある舞台設定、つながりのある出来事からなるプロット、その出来事を動かす対立、そして物語が探るテーマです。すべてのナラティブはどこかの位置から語られるので、視点が6番目の要素として加えられることもよくあります。
語りの態度であるトーンや、言葉や映像の質感であるスタイルを加えるリストもあります。各要素はほかの要素に影響します。語り手を変えればテーマが変わることがあり、舞台設定を変えれば新しい対立が生まれることがあります。
物語の要素についてのページでは、それぞれを順に解説し、人物、舞台設定、プロット構成、対立、テーマの用語集項目へのリンクも載せています。
よくある質問
ナラティブとは何ですか?
事実であれ創作であれ、つながりのある出来事をある視点から語ったものです。物語の語られ方、つまり順序、声、構成を指す言葉でもあります。
ナラティブとストーリーの違いは何ですか?
ストーリーは、起きた順に並べた出来事そのものです。ナラティブはその語り方で、どの出来事を見せるか、どんな順序で、誰が、どんな視点から語るかを指します。
ナラティブの3つの種類とは何ですか?
よくある分け方は、直線的なナラティブ、非直線的なナラティブ、枠物語の三つです。視点によって、一人称、二人称、三人称に分ける方法もあります。
ナラティブの例を教えてください。
おとぎ話から回想録まで、語られた物語はすべてナラティブです。『メメント』はナラティブの選択を示す有名な映画の例で、物語を1場面ずつ逆向きに語ります。
ナラティブの5つの要素とは何ですか?
もっともよく挙げられる五つは、人物、舞台設定、プロット、対立、テーマです。多くのリストは、6番目の要素として視点を加えます。
物語文(ナラティブ・エッセイ)とは何ですか?
多くは書き手自身の体験から物語を語り、それを通して何かを伝える文章です。フィクションと同じように場面、人物、会話を使いますが、出来事は事実です。
語りの視点とは何ですか?
物語が語られる位置のことです。「私」と語る人物、物語の外にいる語り手、あるいは読者を「あなた」と呼ぶ声などがあります。映画では、カメラが誰の体験を共有するかを指します。