ダッチアングル
別名:ダッチティルト、斜め構図
カメラを横に傾け、地平線が斜めになるように撮るショットです。シーンのバランスが崩れたように感じさせ、不安、方向感覚の喪失、危険を伝えます。
同じディナーの乾杯を、二通りに撮る。
- 水平な画面
- 友人たちとの楽しい乾杯。
- ダッチアングル
- 彼女が夫のスマートフォンを見てしまう瞬間。
実践では
ダッチアングル(Dutch angle)は、カメラを光軸を中心に横へ傾けて撮るショットで、地平線や画面の中の垂直線がすべて斜めに走ります。日本語では斜め構図や傾いたアングルとも呼ばれます。シーンの中では何も動いていないのに、世界のバランスが崩れて見えます。映画の作り手はこれを、何かがおかしいことを示すために使います。人物が酔っている、おびえている、自分を見失いかけている、あるいはいつものルールが通用しない場所にいる、といったときです。
ダッチティルトやキャンテッド・アングル(canted angle)とも呼ばれます。「ダッチ」はオランダとは関係ありません。よく知られた説明では、ドイツ語を意味する「ドイチュ(Deutsch)」がなまったものだとされます。傾いてゆがんだこの画づくりは、1920年代のドイツ表現主義映画から来ているからです。『カリガリ博士』をはじめとするこの時代の映画では、描かれたセットそのものが意図的に傾き、ねじれていました。
効果は、使いすぎないことにかかっています。ほかは水平に撮られた映画の中にただ一つ傾いたショットがあれば、観客は何かが変わったと気づきます。最初から最後まで傾いている映画は、観客に角度を無視することを、あるいは笑うことを教えてしまいます。古典的なフィルム・ノワールを不穏にするのと同じ技法が、『バトルフィールド・アース』(2000)を撮影監督たちの間で定番の笑い話にしたのはそのためです。
脚本に書かれたダッチアングル
INT. ハーロウ家のダイニング - 夜
ろうそく。8人の客。クレア(40代)が夫のダニエル(40代)に向けてグラスを掲げる。
CLAIRE
ダニエルに。私に隠しごとなんて一度もしない人に。
ダニエルの皿の横で、彼のスマートフォンが光る。女性の名前。クレアがそれを見る。
DUTCH ANGLE - CLAIRE
部屋が傾く。客たちは笑い続けているが、音が遠のいていく。
CLAIRE (CONT’D)
隠しごとなんて一度もしない人に。
BACK TO SCENE
画面は再び水平に戻る。クレアはワインを一口飲み、微笑む。
このシーンは、クレアの世界が揺らぐ瞬間まで水平を保ち、一つのショットの間だけ傾いて、また元に戻ります。スペック脚本にアングルを書き込むのはふつう監督の領分ですが、ここではそれが物語の情報を担っています。バランスを崩しているのはクレアの視界だけで、その後の水平な画面は、彼女が何事もなかったかのようにふるまうと決めたことを示しているのです。
映画やドラマのダッチアングルの例
『第三の男』(1949)は教科書的な例です。キャロル・リード監督と撮影監督ロバート・クラスカーは、闇市場と分裂した忠誠心が渦巻き、誰も信用できない戦後のウィーンを、ショットを次々に傾けながら撮りました。クラスカーはこの作品でアカデミー賞白黒撮影賞を受賞しています。この傾きは、映画の道徳的な空気を目に見えるようにしたものです。
1960年代のテレビシリーズ『バットマン』は、物語が悪役のアジトに入るたびにカメラを傾けました。「ここはねじれた世界だ」という同じ約束事を、遊び心たっぷりに使ったものです。スパイク・リーの『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989)は、夏のいちばん暑い日にブルックリンの一画で緊張が高まるにつれて、どんどん傾きを強めていきます。アングルが物語の温度を追いかけているのです。
ケネス・ブラナーの『マイティ・ソー』(2011)は、コミックの世界を壮大に見せる意図もあって、全編でダッチアングルを使っています。うまくいったかどうか、批評家の意見は分かれました。ブライアン・デ・パルマの『ミッション:インポッシブル』(1996)は、イーサン・ハントが自分の所属する組織に疑われていると知るレストランの場面でカメラを傾けます。彼にとって映画の世界が意味をなさなくなる瞬間です。
ダッチアングルが語ること、使うべきとき
傾きは不安として読まれます。よくある意味は、方向感覚の喪失(酔い、薬物、頭のけが)、不吉な予感(何かがまずいことになりそうだ)、狂気や執着、そして道徳的なゆがみ(腐敗した場所、悪役の視点)です。アクションに勢いを加え、格闘や追跡を不安定に感じさせることもできます。
いちばん効くのは変化として使ったときです。シーンの途中で傾いていくショットや、転換点に置かれたただ一つの傾いたショットは、観客にはっきりした合図を送ります。悪夢や精神の崩壊のように、物語が別の状態に入ったときには、傾いたショットの連続も機能します。そして、その後で水平に戻るのです。
傾きの向きと角度も大切です。数度だけのわずかな傾きは静かな緊張を感じさせ、急な傾きは世界が倒れていくように感じさせます。人物の方へ傾ければ脅威に見え、人物から離れる方へ傾ければ追い詰められているように見えることがあります。
脚本にダッチアングルを書く方法
スペック脚本では、カメラの指定はふつう監督に任せます。カメラ指定だらけのページは、脚本家が紙の上で監督をしているように読めてしまいます。傾きが物語にとって大切なら、まず感覚を書きましょう。「部屋が傾いたように見える」。読み手はそれを感じ取り、監督はそれを実現するアングルを選べます。
アングルそのものが要点なら、短いショットの柱は許容されます。「DUTCH ANGLE - CLAIRE」と書いてアクションを続け、その後に「BACK TO SCENE」と書くのです。意味を担う瞬間に一度だけ使いましょう。撮影用の台本や監督稿では自由に書いてかまいません。そこではカメラの計画も仕事の一部だからです。
ダッチアングルとハイアングル、ローアングル
カメラアングルの多くは高さを表します。ハイアングル(俯瞰)は被写体を見下ろし、小さく弱々しく見せることがあります。ローアングル(あおり)は見上げ、力強く見せることがあります。目の高さのアイレベルは中立です。真上から見下ろすのは真俯瞰(バードアイビュー)です。ダッチアングルはそれらとは違い、カメラを上げ下げするのではなく画面そのものを回転させるもので、どのアングルとも組み合わせられます。
そのため、ダッチアングルはふつう別の種類のアングルとして教えられます。悪役を傾いたローアングルで撮れば、力とゆがみという二つの意味を一つのショットに込められます。まずまっすぐなアングルを学んでおくと、傾きが何を加えているのかが見えやすくなります。
よくある質問
ダッチアングルとは何ですか?
カメラを横に傾けて、地平線が斜めになるように撮るショットです。シーンのバランスが崩れたように感じさせ、不安や方向感覚の喪失、危険を表すのに使われます。
なぜダッチアングルと呼ばれるのですか?
一般には、「ダッチ」はドイツ語を意味する「ドイチュ(Deutsch)」がなまったものだと説明されます。この画づくりが1920年代のドイツ表現主義映画から来ているためで、オランダとは関係ありません。
ダッチアングルは何のために使われますか?
何かがおかしいことを示すためです。人物が酔っている、おびえている、自制を失いかけている、場所が腐敗している、あるいはある瞬間が一変しようとしている、といったときです。アクションシーンに緊張を加えることもあります。
ダッチアングルの別名は何ですか?
ダッチティルト、キャンテッド・アングル、オブリーク・アングルとも呼ばれ、日本語では斜め構図とも言います。どれもカメラの同じ横方向の傾きを指しています。
ダッチアングルを使った映画には何がありますか?
いちばん有名なのは『第三の男』(1949)です。『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989)、『マイティ・ソー』(2011)、『ミッション:インポッシブル』(1996)、1960年代の『バットマン』も目立つ使い方をしています。
脚本にダッチアングルを書くべきですか?
スペック脚本ではまれです。代わりにト書きで感覚を描写しましょう。アングルが物語上の意味を担うなら、その瞬間に「DUTCH ANGLE - CLAIRE」のような短い柱を一つ書くのは許容されます。
ダッチアングルとローアングルはどう違いますか?
ローアングルはカメラを被写体より低く置いて見上げるもので、被写体を力強く見せることがあります。ダッチアングルは画面を横に傾けるものです。一つのショットが両方を兼ねることもあります。